「風のように生きる」を見つける
参加型コミュニティ

第2話 選ばれし者「潜熱のノマ」

「フンフフーン♪  今日もギターのセッティングがうまく決まったなぁ・・・。さーて、お仕事お仕事。」

そうして彼はギターを置いてノートパソコンを開くと、いつものようにクライアントへの返信はそっちのけで、仲良くしているコミュニティメンバーとのコミュニケーションを始めた。

現代では働き方も多様になっていて、ノマドワーカーも増えている。彼もそんなノマドワーカーの一人で、フリーランスでウェブメディアの運営をサポートしている。みんなとワイワイしているのも好きだが、一人で自分の世界に没頭することも好きでよくギターも弾いたりしている。いつも自分のペースで生きられるノマド(遊牧民)的な生き方に憧れていて、それなりに実践できているという自覚もある。

そんな彼が今楽しんでいるのがコミュニティメンバーとのコミュニケーションだ。多様な生き方になった現代では、昔のような会社や地域のコミュニティの関係性が少なくなってきている代わりに、デジタルのつながりも多くなっていて、彼が楽しんでコミュニケーションしているのも、そんなデジタルコミュニティのひとつだ。

そこでは彼のギターの弾き語りを楽しんでくれたり、書き込みにいっぱい答えたりしてくれる仲間がいる。彼もそんな仲間達のためにあれやこれやと書き込みをし続けている。

「今日もラジオのライブ配信をしよーかなー?」

ほどよい距離感で会話を楽しめるこのコミュニティで、彼は様々な発信をしている。メッセンジャーのような役割が彼の性分とピッタリハマって、このコミュニティでは彼のファンも生まれ始めている。

『ノマさん、こんにちは!今日もライブ配信するんですか?』
『おー、ラジオ更新お疲れ様です!後ほど伺います!』

こんな書き込みが毎日のように届く。デジタルコミュニティでも人気の彼のハンドルネームは「ノマ」。もちろん憧れの生き方「ノマド」から付けた名前だ。

現実の世界でも楽しい暮らしはできていて、もうすぐ3歳になる娘もいる。仕事の評価もまー、それなりにもらっていて、あんまり無理することなくそれなりに幸せな暮らしはできている。側から見たらきっと幸せな生き方をしてるように見えるし、実際そうだとも思う。

ただ・・・

「もし、もう一度あの時に戻れるなら・・・本当の自由をきっと手に入れれるんだろうけどな」
寂しそうに微笑み、彼はそう呟いた。
そして心の奥底に潜んでいる後悔の炎を隠すように、ギターを持ちあげて、彼は発信の準備をし始めた。

「おや、誰かからDMが来てる。ん、ユノートルさん?」

過去を振り払うように彼はまたコミュニティメンバーとの会話に戻り、パソコンの中の世界に没頭していった。

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